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証券新聞7/19号『遺留分に係る民法特例』

2013-07-19 (Fri) 14:41
Q.私は、非上場企業を経営しており、当社の株式は全て私が保有しています。妻、長男、次男の4人家族ですが、当社の経営権をいずれは長男に譲るつもりで、保有している自社株式の全ても譲ることを考えています。私の財産は自社株式がほとんどを占めるため、これを長男に全て譲るとすると、将来、遺産分割をめぐり争いが生じないか心配しています。後継者となる長男に自社株式の全てを譲ることを前提とした場合、良い方法はありますか。
なお、現在のところ、次男は今後も当社には関与しない予定で、長男に株式全てを譲り、当社の事業を承継させることについては妻も次男も納得しています。
20130719


 
A.相続が発生した場合、民法では被相続人と一定の血縁関係にある者に最低限の取り分が認められています。被相続人が遺言等により自分の財産を自由に処分できるのは当然のようにも考えられますが、遺族の生活保障や相続人間の平等を確保するためにこのような制度があり、この最低限の保障が「遺留分」です。遺留分の計算の基礎となる金額には、相続人への生計の資本としての贈与等の金額も含まれます。

ご質問のケースのように、財産の大半が自社株式や事業用資産である場合には、株式を後継者に集中させたいと考えていても、この遺留分制度があるために株式を分散せざるを得ない場合があります。また、生前、後継者に自社株式を贈与したとしても、遺留分の計算の基礎となる金額は経営者(被相続人)の相続開始時点での評価額となりますので、後継者の貢献で自社株式の価値が上昇したとしても、後継者以外の相続人(非後継者)の遺留分を増加させることにもなってしまいます。このような遺留分制度が与える事業承継への制約を防止するために、経営承継円滑化法における民法特例を活用することが考えられます(※)。
(※)他の対応策として、非後継者が遺留分の事前放棄をするということも考えられますが、非後継者である各相続人が自分で家庭裁判所へ申立てをしなければならず、また家庭裁判所による許可・不許可の判断が均一でない可能性等もあり、利用しにくい現状です。

(1)民法特例の概要
1.除外合意
後継者が、非後継者との合意により、経営者である被相続人から生前贈与等された自社株式につき遺留分算定の基礎財産に含めないことができます。これにより、自社株式が遺留分減殺請求の対象になりません。

2.固定合意
後継者が、非後継者との合意により、経営者である被相続人から生前贈与等された自社株式について、遺留分算定の基礎財産に算入する価額を合意時点の価額とすることができます。これにより、後継者は、将来の株式価値上昇による遺留分の増大を懸念する必要がなくなり、事業へ注力することが出来ます。この固定合意の際には、その価額が合意の時における価額として適正なものであるという公認会計士等の専門家の証明が必要となります。また、遺留分算定上で算入する価額が合意時点の価額で固定されるので、株式価値が下落した場合には、後継者にとっては逆に遺留分算定上不利となってしまうケースもあります。したがって、適用については慎重に判断する必要があります。

3.付随合意
(1)と(2)の合意に併せて、後継者と非後継者との間のバランスをとるために、非後継者が生前贈与等により取得した財産につき、遺留分算定の基礎財産に含めないことが出来ます。

(2)適用を受けるための主な要件
適用を受けるためには、それぞれ次の要件を満たす必要があります。
1. 会社:非上場の中小企業であり、合意時点で3年以上継続して事業を行っていること
2. 経営者:会社の代表者であった者(合意時点で代表者である者を含む)
3. 後継者:経営者の推定相続人のうち、経営者から自社株式の贈与等を受け、会社の議決権の過半数を保有している者であり、かつ、合意時点で会社の代表者である者
民法特例は、経済産業大臣の確認と家庭裁判所の許可が必要ですが、後継者のみが単独で手続きを行うことができるため、非後継者の事務的負担を少なく進められます。また、推定相続人全員の合意を前提としているので、非後継者間で不公平となることは生じません。
 
適用にあたっては相続人全員の合意が必要であることがハードルになっており、適用実績件数は多くありません。また、制度の認知度が低いことも件数が伸びていない原因となっているかもしれません。ただ、適用要件や状況が整う場合に適切に活用すれば、事業承継を円滑に進めるための有効な方法にもなりえますので、事業承継の進め方の一つとしてご検討ください。